「次の首相は」こうして決まる 【柿崎明二】

「次の首相」はこうして決まる (講談社現代新書)

「次の首相」はこうして決まる (講談社現代新書)

派閥による首相管理から人気投票によるガチンコ勝負へ。「首相決定のメカニズム」の変化をとらえた1冊。

論理も大変わかりやすく、大変面白かったです。

学校では派閥についてなんて習わないのですが、つい最近までは完全に自民党<派閥だったんですね。
制度的には、中選挙区制がそれを支えていたと。

自民党という「政党」よりも、党内の「派閥」のほうが、所属議員にしてみればはるかに重要だった。しかし、これほど派閥が力を持ったのはどうしてだろう。
中選挙区制度の下で自民党が全体の過半数を確保するには、ひとつの選挙区に複数の自党候補を擁立する必要がある。たとえば、定数三の選挙区では二人、定数五の選挙区では三人の候補者擁立が求められる。しかし、自民党候補に投票する「自民票」はほぼ一定だから、複数の公認候補は、「自民票」の奪い合いをすることになる。その奪い合いは選挙期間中だけでない。それぞれの議員が、「普段、地元の発展のためにいかに仕事をしてくれたか」が目安になる。その最たるものが公共事業など利益誘導である。ここに派閥の出番があった。
自民党の党本部は、自党の候補者を平等に扱わなければならない。候補者からすれば、同じ党の候補と競い合うには党本部は頼りにならない存在なのだ。当然のように、派閥に選挙時の資金、人的支援、利益誘導のサポートをお願いすることになる。
一方、派閥側にしてみても、来るべき総裁選に向けて自派の勢力を拡大するには、所属する候補を当選させなければならない。平時は地元への利益誘導をサポートし、選挙時には資金や人的な支援を行うことになる。時には公認されなかった保守系無所属候補を応援して当選させ、選挙後に入党させるというようなことまで行った。「派閥丸抱え選挙」である。
また、選挙がない平時でも、領袖は資金的な側面だけでなく、より重要なポストに就けてくれという所属議員の「圧力」に応えなければならない。領袖は時の首相(総裁)の政権運営に協力し、時には非協力の態度をとることを通じてポストを獲得してくることになる。「派閥人事」の横行である。
派閥の領袖は選挙応援、資金支援、ポスト調整というメリットを与え、所属議員はそれを総裁選時の応援で返す、という関係が自民党自体を覆っていた。自民党が「派閥連合政党」「派閥あって党なし」と言われたのは、こうした事情からだった。

(p.87,88)

本書では、選挙制度の変化(中選挙区制小選挙区比例代表並立制)で、上記のような派閥の役割が徐々に奪われ、代わりにメディアの次期首相候補調査などが大きな影響を果たすようになったと続いていきます。(要は、メディア調査を参考に派閥が首相候補を推す)。

また、池田信夫ブログでは、別の視点として、景気の悪化により派閥の集金力がなくなり、同時に求心力も失ったと説いています。池田信夫 blog : 小泉純一郎という奇蹟


個人的には、選挙制度の変化も、景気の悪化も、政治システム変化において同様に重要な要素だと思います。
要は、選挙含めた政治運営そのものが、市井目線に近づいている(近づかざるを得なくなった)、現在は移行期なのだと思います。

今までぶっちゃけ市井<派閥だったけど、それではやっていけなくなった。だから、マニフェストを書いてみたり、ニコニコ動画で生放送してみたり、前より純粋に「市井にアプローチ」するようになった。

これは、いいことではないですか。突き詰めると、「私たちが日本を創る」ことなのですから。
市井が愚かだと、政治も愚かになり、日本も愚かになる。
市井が賢いと、政治も賢くなり、日本も賢くなる。

それだけのことではないでしょうか。
「政治は私たちを映す鏡」となっているし、その傾向は今後も続くと思います。(小泉さんみたいな人が出てきたら話は変わるかもしれませんが)