電子書籍の衝撃 【佐々木俊尚】

電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)

電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)

電子書籍に関する本はこれしか読んだことがないですが、めちゃくちゃ面白かったです。

アマゾン・アップル・グーグルの攻防が手に取るように伝わってきて、ハラハラ&わくわくの1冊に仕上がってます。

あと、わざわざ1章を割いて日本の出版業界を批判しているのもめっちゃ痛快。
その中から1部引用;

しかし、資源の単なる無駄遣いだけであれば、まだよいのです。この委託制による大量配本は、別の重要な問題を出版業界に引き起こしています。
出版業界に詳しいライターの永江朗さんが「本のニセ金化」と呼んでいる重大事態です。
どのような意味でしょうか。
書店と取次、出版社の間でのお金のやり取りは、さまざまな条件があって非常に複雑なのですが、ここではものすごく単純化して説明してみましょう。

たとえば新書で考えてみましょう。定価七〇〇円ぐらいの新書の場合、出版社から取次に卸す金額(業界用語では「正味」といいます)は五〇〇円ぐらいになります。この本を一万部刷って、出版社が取次に卸したとします。
この際、重要なのは、売れた分だけ取次からお金をもらうのではなく、取次に委託した分すべての金額をいったん取次から受け取れるということです。
だからこの新書を取次に卸すと、出版社はいったん取次から五00万円のお金を支払ってもらえます。
でも仮に、一万部のうち書店で五〇〇〇部しか売れず、残り五〇〇〇部は返本されたとしましょう。そうすると出版社は、この五〇〇〇部の代金二五0万円を、取次に返さないといけないということになります。
そこで出版社はあわてて別の本を一万部刷って、これをまた取次に卸値五〇〇円で委託します。そうするといったん五00万円の収入になるので、返本分二五0万円を差し引いても、二五0万円が相殺されて入ってくることになります。
これこそが、本のニセ金化です。出版社は返本分の返金を相殺するためだけに、本を紙幣代わりにして刷りまくるという悪循環に陥っていくのです。

本省の冒頭で、本の出版点数は八〇年代と比べると三倍近くにまで増えているという数字を紹介しました。「本が売れなくなっている」と言われているのにもかかわらず、これだけ点数が増えてしまった背景には、実はこのニセ金化現象があったのです。
(中略)
このような状況で、編集者がいい仕事をできるわけがありません。次々に本を出すよう上司から言いつけられ、じっくり書き手と向き合う余裕もなく、まともに構成もされていないような駄本を延々と作り続ける。そういう本が書店にあふれ、ますます良い本は見つけにくくなって、本はさらに売れなくなっていく―。
こんな状況がもう一〇年以上も続いています。このまま進めば日本の出版業界は、崩壊を避けられないでしょう。実際、中小の出版社では倒産するところがここ数年非常な勢いで増えてきています。

何度も言いますが、これは「活字離れ」やインターネットが原因ではありません。本と読者のマッチングモデルが劣化し、読みたい本を見つけることができない本の流通プラットフォームに最大の問題があるのです。
実際、日本よりもずっとインターネットが社会で利用されているアメリカでは、本の売上は増えています。アメリカ小売書店協会(ABA)の統計によると、書店全体の売上は、一九九七年が約一二七億ドルだったのに対し、二〇〇四年には一六八億ドルにまで成長しているのです。ネットによって活字化が支えられ、以前よりも多くの人々が本を読むようになってきているのです。
本来は日本だってこのぐらいの成長は見込めたはずなのに、プラットフォームの劣化と出版文化の弱体がすべてを台無しにしているというのが実態なのです。

(p.233-238)

個人的には、質の良い本が読めれば紙でも電子書籍でも何でもいいです。
まあ、上記の腐敗を洗い流すためには電子書籍の普及が一番効果的なのでしょう。